鏡を見るたび、ふと立ち止まってしまう瞬間がある。
頬の輪郭、目元の表情、口角の位置。 すべてが以前とは違って見える時がある。
それを「老い」と呼ぶのか、それとも「変化」と捉えるのか。 その境界線で、多くの40代、50代の女性が静かに立ちすくんでいる。
美容ジャーナリストとして30年以上、数百人の美容家やエステティシャンを取材してきた私が、今回お伝えしたいのは「歳を重ねる美しさ」という、まったく新しい美の概念です。
その手がかりを握るのが、日本のエステティック界のパイオニア、たかの友梨という存在。 彼女が体現し続けてきた美の哲学は、単なる美容論を超えて、「女性の生き方そのもの」を問いかけている。
この記事で辿るのは、外見を取り繕うハウツーではない。 自分自身を肯定し、年齢という数字に囚われない、本当の意味での美しさとは何かを探る旅である。
美しさの系譜:たかの友梨という存在
70年代から現在までの軌跡
1973年、一人の女性が日本に帰国した。 フランスで8ヶ月間のエステティック修行を終えた、25歳のたかの友梨だった。
当時の日本で「エステティック」という言葉を知る人は少なく、美容といえば化粧品店での相談程度。 まして、プロの手技による全身美容など、ごく限られた富裕層のものでしかなかった。
そんな時代に彼女が掲げたのは、**「これからは女性が社会で働いて活躍する時代が来る」「エステティックを女性のリフレッシュできる場所にしたい」**という、今思えば驚くほど先見性のあるビジョンだった。
創業時の信念
- 女性の社会進出を見据えたサービス設計
- リラクゼーションと美容の融合
- 「体の自然治癒力をサポートする」という理念
メディアが映してきた「たかの友梨像」
『FRaU』創刊期、私がたかの友梨に初めてインタビューした時の印象は鮮烈だった。 美容業界という華やかな世界にいながら、彼女から感じたのは職人気質ともいえる真摯さ。 技術への探究心と、お客様一人ひとりへの深い共感が同居していた。
メディアが描く「たかの友梨像」は時代とともに変化してきた。 70年代〜80年代は「美容界の革命児」として。 90年代〜2000年代は「エステティック界の女王」として。 そして現在は「生涯現役のセラピスト」として。
しかし一貫しているのは、美容を通じて女性の人生に寄り添い続ける姿勢だ。
“サロン”という空間が持つ意味の変遷
初期のたかの友梨ビューティクリニックは、まさに「クリニック」という名前が示すように、医療的なアプローチを含んだ美容施設だった。
時代が進むにつれ、サロンの意味は次第に変化していく:
1970年代〜1980年代
→ 美容技術を提供する専門施設
1990年代〜2000年代
→ 女性のライフスタイルを支える社交場
2010年代〜現在
→ 心身のウェルネスを追求する癒しの空間
現在では、幹細胞培養液配合コスメや水光美肌トリートメントなど、最先端の技術と伝統的な手技を融合させたサービスが提供されている。 しかし、どれほど技術が進歩しても、たかの友梨が大切にしているのは「人の手によるケア」の温もりだ。
「歳を重ねる美しさ」とは何か
エイジングと美の再定義
「エイジング」という言葉から、あなたは何を連想するだろうか。
多くの人が思い浮かべるのは、シワ、たるみ、シミといった「失うもの」のリストかもしれない。 しかし、たかの友梨が長年提唱してきたのは、まったく異なる視点だった。
「年齢を重ねることは、美しさを『更新』すること」
この考え方の背景には、2023年に彼女が受賞した「プラチナエイジスト賞」の理念が色濃く反映されている。 この賞は「年齢にとらわれず自らの人生を大いに輝かせ活躍している人」に贈られるものだ。
美容=自己肯定の手段という視点
最新の調査データによると、40代・50代女性の美容意識には興味深い傾向が見られる:
項目 | データ |
---|---|
実年齢より若く見えると思う女性 | 約8割 |
エイジングケアが重要と考える女性 | 95% |
体の内側からのケアに興味がある女性 | 61.8% |
肌の老化を感じ始める平均年齢 | 38歳 |
注目すべきは、多くの女性が「自分は若く見える」と認識している点だ。 これは単なる自己満足ではなく、年齢に対する新しい向き合い方の表れといえる。
たかの友梨が語る「成熟」の価値
「どんなにテクノロジーが進歩しても、癒し、いたわり、慈しむことは、人だけが成しうること」
これは、たかの友梨が公式サイトで語っている言葉だ。 AIや美容機器がどれほど発達しても、人間の手の温もりや心の通った言葉は代替できない。
成熟した女性の美しさとは:
- 経験に裏打ちされた自信
- 他者への深い共感力
- 自分らしさへの確信
- 時間の使い方の上手さ
これらは、20代、30代では得ることのできない、年齢を重ねたからこその財産なのだ。
現場の声から見える、美の哲学
サロンで出会った40代・50代女性たちの言葉
私がこれまでの取材で出会った、たかの友梨のサロンに通う女性たちの声を振り返ってみたい。
「子育てが一段落して、久しぶりに自分のために時間を使えるようになりました。エステを受けながら、『これからの人生をどう生きたいか』を考える時間になっています」(45歳・専業主婦)
「仕事で疲れた時、ここに来ると心がリセットされます。技術の素晴らしさもそうですが、スタッフの方々が『お疲れさまでした』と声をかけてくれる時、本当に救われる思いです」(52歳・会社員)
「年齢を重ねるにつれて、『きれいになりたい』の意味が変わってきました。人と比べるのではなく、昨日の自分より少しでも調子が良くなれば、それで十分だと思えるようになりました」(48歳・自営業)
施術室に流れる会話の温度
エステの施術室で交わされる会話には、独特の温度がある。 日常を離れた空間で、女性たちは普段は言葉にしない思いを口にする。
仕事のこと、家族のこと、将来への不安、小さな喜び。 エステティシャンは技術を提供するだけでなく、聞き手としての役割も担っている。
私が取材したあるエステティシャンは、こう語っていた:
「お客様の肌に触れていると、その方の生活リズムや心の状態が手に伝わってきます。忙しすぎる時の肌、悩みを抱えている時の肌、幸せな時の肌。それぞれに特徴があるんです。技術でケアできる部分と、お話を聞くことでケアできる部分があります」
美容家たちが語る”継続すること”の力
たかの友梨のサロンで働くエステティシャンたちからよく聞かれるのが、「継続の大切さ」についてだ。
1回の施術で劇的な変化を求めるのではなく、定期的なケアを通じて肌と心の両方を整えていく
これは、年齢を重ねた女性にとって特に重要な視点だ。 20代のような急激な回復力は期待できないかもしれないが、その代わりに得られるのは:
継続ケアの効果
✓ 肌のコンディションの安定
✓ セルフケア意識の向上
✓ リラクゼーション習慣の定着
✓ 自分への投資意識の醸成
藤井梓の視点:「取材」という名のタイムカプセル
FRaU創刊期、たかの友梨との初対面
1989年、『FRaU』編集部に入った私にとって、たかの友梨への初取材は忘れられない体験だった。
当時の彼女は既に美容界での地位を確立していたが、インタビューで感じたのは驚くほどの謙虚さと学習意欲だった。 「まだまだ知らないことばかりです」と語る41歳の彼女の言葉に、私は深く印象を受けた。
あれから35年。 77歳になった現在も、彼女は「生涯セラピストでありたい」と語り、世界各地の最新技術を学び続けている。
そんな彼女の人生哲学の根底には、たかの友梨自身の壮絶な子供時代の体験がある。 15歳まで養子であることを知らされずに育った過去が、現在の「すべての女性に寄り添いたい」という信念を形作っているのだ。
蓄積された言葉と表情の記録
ジャーナリストという仕事の特権は、時間の経過とともに「変化」を目撃できることだ。
私がこれまでに記録してきたたかの友梨の言葉を振り返ると、一貫しているテーマがある:
「美しさは、その人らしさを輝かせること」
20代の頃は外見的な美しさに注目していた私も、50代を過ぎた今、この言葉の深さを実感している。 年齢を重ねるということは、自分らしさを純化させていく過程なのかもしれない。
美容を通じて見えてきた”女性という存在”
30年以上にわたる美容業界の取材を通じて、私が確信していることがある。
美容は、女性の生き方そのものを映し出す鏡である
1990年代、働く女性が増えた時期には「時短美容」がトレンドになった。 2000年代、個性重視の時代には「オーダーメイド美容」が注目された。 2010年代、健康志向の高まりとともに「インナーケア」が台頭した。
そして現在、40代・50代女性の美容意識調査で最も注目すべきは、「内側からのケア」への関心の高さだ。 61.8%の女性が体の内側からのアプローチに興味を示している。
これは単なる美容法の変化ではない。 女性たちが、表面的な美しさではなく、根本的な健やかさを求め始めている証拠なのだ。
まとめ
たかの友梨が教えてくれた「美しさは更新されるもの」
この記事を書きながら、私は一つの確信に至った。
美しさは、失われるものではなく、更新されるものだ
20代には20代の美しさがあり、40代には40代の、60代には60代の美しさがある。 それぞれが異なる価値を持ち、どれも等しく尊いものだ。
たかの友梨が半世紀にわたって体現し続けてきたのは、まさにこの考え方だった。 年齢とともに技術を磨き、知識を深め、人としての魅力を増していく。 それこそが、真の意味での「アンチエイジング」なのかもしれない。
年齢を重ねることへの、新しいまなざし
現在のエステ業界は、2024年の市場規模が3,133億円と安定した成長を続けている。 特に注目すべきは、40代・50代女性の利用増加だ。
これは単なる消費行動の変化ではない。 女性たちが年齢を重ねることを恐れるのではなく、積極的に向き合おうとしている表れだ。
読者自身が見つける「自分の肯定のかたち」
最後に、この記事を読んでくださったあなたに問いかけたい。
鏡の中の自分を見た時、何を感じるだろうか。 失ったものを数えるのか、それとも積み重ねてきたものに目を向けるのか。
40代から始まる美しさは、自分で定義するものだ
たかの友梨が教えてくれたように、美しさとは更新し続けるもの。 昨日の自分より少しでも心地よく、少しでも自分らしく生きることができれば、それが最高の美容法なのかもしれない。
年齢という数字に囚われることなく、あなたらしい美しさを見つけていってほしい。 それが、この記事に込めた私の願いである。
【著者プロフィール】
藤井梓 美容ジャーナリスト
早稲田大学第一文学部卒業後、株式会社講談社『FRaU』編集部にて美容・ライフスタイル分野を担当。2002年よりフリーランスとして活動。数百人に及ぶ美容家、エステティシャン、メイクアップアーティストを取材し、女性の美と生き方について発信し続けている。
最終更新日 2025年6月15日 by ekisai