本の出版ビジネスについて

小説募集のカラクリ

「小説原稿、募集中!」という広告をご覧になった事があるでしょうか?

出版業界は不況と言われて久しく、どこも青息吐息という所がほとんどです。

いわゆる大手と呼ばれる所でも相当に厳しい状況が続いているというのが現状です。

インターネットの普及や電子書籍等の新しい媒体が登場したというのもありますが、むしろ「世の中の指向」がこれまでの文学作品という物から離れていっているというのが原因ではないか、と推察されます。

そんな中で出て来た新しい稼ぎ口が、この小説募集ビジネスです。

インターネットの普及によって小説投稿サイトという、新しい発表の場が生まれ、その中からヒット作になる物や映画化される物まで現れ始めました。

少し以前までは自分で小説を書いても「同人誌に参加する」位しか発表の場は無く出版社の新人賞に応募しても最初の選考で没にされてしまう事がほとんどで発表の場、そのものが無かった、という状況が一変しており「無名の新人」でも作品をどんどん発表して何らおかしくない、という雰囲気になってきています。

ライトノベル全盛期の現代

そしていわゆる「ライトノベル」全盛の時代を迎えています。

今の日本の映像業界でアニメは重要な位置を占めておりアニメが主要なコンテンツとなってきています。

そのアニメの原作となるのが「ライトノベル」です。

アニメ制作会社は「何か良い原作は無いか」とライトノベルの新作品に目を光らせているという状況です。

一方、いわゆる「純文学」と呼ばれる物は衰退の一途をたどっており作家の登竜門と呼ばれる芥川賞や直木賞を受賞してもライトが当てられるのは受賞時だけで、その後は忘れさられてしまう作家がほとんんど、というのが実態です。

今、日本は高齢化社会を迎えており年齢が高くなるほど人口数が多いという状況を迎えていますが現在の50歳以上の方が若い頃は、まだまだ純文学が勢いを持っていた時代で遠藤周作や吉行淳之介などの「第三の新人」と呼ばれる作家達の作品が沢山、売れていた時代です。

その50歳以上の方達もそろそろ定年を迎える年齢となり自分の時間が持てるようになり自分達が若かった頃に読んだような小説でも書いてみようか、という方が増えてきています。

また、そういった方達のために「小説投稿サイト」という以前には無かった発表の場も有るのです。

誰しも「あわよくば大ヒット」と思いつつ自分の小説を投稿サイトに発表しているのです。

そして、そこに目を付けたのが「小説募集ビジネス」です。

簡単に言うと「あなたの書いた小説を出版してみませんか?」と持ちかけて来るのです。

大抵の場合は「御作品を拝見して大変に感銘を受けました」とか「これほどの作品を埋もれさせるのは、あまりにももったいないです」とか作品を褒めちぎったうえで持ちかけてきます。

そして色々な名目で作者にお金を要求してきます。

「うちの社は大手書店と強いコネがあるので必ず平台に乗せさせます」とか(平台というのは書店の入り口近くにある平台に積み上げて売る場所の事で ここに積まれて売られる本は大抵、沢山売れる)「色々な媒体で広告を打ちます」等、まるで大ヒット間違いなしとでも言わんばかりの口調で持ちかけてきます。

それに釣られて承諾すると色々な名目で費用負担をする事になります。

そして一応、実際に印刷され本として出されます。

大抵の場合は一部の書店にも並びますので著者は実際に自分の書いた小説が書店で売られているのを自分の目で見る事もできます。

小説募集ビジネスには注意が必要

しかしそんな無名の作家の作品が売れる事は有りません。

販売開始して一ヶ月も経つと「残念ながらほとんど売れませんで」という報告が入ってきます。

大抵、初版は1000部から3000部という感じですが、ほとんどの場合は売上が10冊以下であり印税など無きに等しいという結果となります。

そして「作品は大変に素晴らしい物なので少しでも後世に残せたという事で今回は満足しましょう」という事で終了となります。

この商法は「自費出版」と言わない所がミソで「自費出版」は「何らかの記念」として行う物で商業ベースの物ではありません。

ですが、この商法は実質的に「自費出版」であるのに、いかにも商業ベースであるかのように思わせる所がが手口なのです。

中には「手ごたえは感じました。

次の作品もやりたいと編集長は言ってます」という具合にを次作を誘ってくる所もあります。

一見、詐欺のようですが一応、ちゃんと契約に則った対応がなされていますので詐欺として立件はできません。

不況の中、小さな会社では、このビジネスを本業としているような所も出てきています。

書いた側としては「自分の書いた小説が書店に並ぶ」ので大きな自己満足が得られますし編集者に褒められるのも良い気持ちですから、案外に自分が食い物にされている事に気が付かない事も多いのです。

会社側としては出してくれるほど儲かりますし、口で褒めるのはタダですからいくらでも褒めてきます。

そういった「甘い言葉」に誘われたら食い物にされてしまいます。

くれぐれも、こういった小説募集ビジネスにはお気を付け下さい。

最終更新日 2025年6月15日 by ekisai